陰謀のための結婚

「ただ、智史さんと出会わせてくれたことと、母と友恵さんが親しくなることを静観してくれていた二点は感謝しています」

 友恵さんと話す機会を持ち、私にとって友恵さんは三矢よりもよっぽど信頼が置けた。

 彼女は三矢に頼まれたからといって、母と親しくなったり、母に仕事を斡旋するような女性ではない。

 そうなると、母と親しくなったのは友恵さんの意志だ。

 そして三矢にしてみれば、母と友恵さんが親しくしている事実を知る術はいくらでもあるだろう。

 知った上で邪魔立てしなかったのは、友恵さんを信じているからこそであり、私の母をも信じているからだ。

 その点に気づいたとき、友恵さんの言った『不器用な優しさ』を垣間見れた気がした。

 シンとした静寂が辺りを包んだ後、「要件が済んだのなら、わたしはこれで」と三矢は言葉少なに個室を出て行った。

 私は扉を見つめたまま、心の中で何度も繰り返す。

 これでよかったんだ。これで。

 智史さんはなにも言わずに私を抱き寄せた。彼のぬくもりに、何故だか涙があふれて止まらなかった。

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