陰謀のための結婚
ピシャリと言ったつもりだったのに、玲奈はなにやらニヤついている。
「香澄さん、自分で認めちゃってますよ。『目を覚まさせてくれた』って、恋に盲目になっていたって白状してるのと同じです」
「恋⁉︎」
まさかそんな。会ったばかりの人に。
「美しい、女性慣れした男性だったんですね? 香澄さんをここまで骨抜きにするなんて、罪な男ですね!」
骨抜きにって、そんなわけない。
そう反論したいのに頭に浮かんでくるのは、薄く開かれた彼の唇。あのときは、じっと見ていたわけでもないのに、色気漂う唇がゆっくり近づいてくる様子が頭の中で再現される。
私はデスクに両手を付き、勢いよく椅子から立ち上がった。
「香澄さん?」
顔を上げられず、デスクの上にある書類を見つめたまま。
「ごめん。ちょっとお手洗い」
居た堪れなくて足早にトイレに向かう。後ろからは「香澄さんってば!」と玲奈の呼び止める声が響いていた。