陰謀のための結婚

「だって彼女の年齢は……」

 混乱する俺に、直輝は眉尻を下げて言う。

「ちょっと複雑な事情がありまして」

 断るつもりで会いに行った昨日の顔合わせ。世話になっている三矢不動産との今後の関係を考え、三矢社長の顔を立て、会うだけは会おうという気持ちだった。

 自分にはもったいない女性でしたので。と、断る理由も決めていた。

 だから釣り書も写真も見ていかなかった。帰宅した際、改めて目にして、彼女が二十八歳だと知った。

「恋した相手が姉だなんて、父の術中にまんまと(はま)っていますね」

『ひと目だけでも会ってやってくれないか。会えばきっと気に入る』

 自信を覗かせた三矢社長と、どこか楽しそうな直輝が重なって見えて、直輝の頭を軽く小突く。

「恋したとは言っていない。無駄話が過ぎるぞ」

「はーい」

「はい。は伸ばさない」

「はい」

 素直な声を聞き、業務に戻る。資料の棚に視線を移した瞬間、直輝のぼやき声。

「ま、智史さんのお悩み相談が主だったんですけど」

 目を細め直輝に視線を投げると、直輝は頭を縮こませ肩を竦めた。
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