陰謀のための結婚

「ただいま〜」

 アパートの中は蒸し暑い。また母が節約のためといって、クーラーをかけていないのか。

 心配しつつ玄関を抜けると、キッチンで母が倒れていた。

「お母さん⁉︎」

 駆け寄り、体を触ると熱い。

 慌てて鞄から携帯を取り出す。震える指先で救急車を呼んだ。

 救急外来の待合室で待つ間、後悔が渦を巻き、悪い想像ばかりが頭を巡る。

 どうして体調の悪い母に片付けを頼んでしまったのか。母が無理をするのはわかっていたのだから、遅刻しても自分でやればよかった。クーラーだって朝からかけて出るべきだった。

 どれだけ待ったのかわからない。一分が一時間に感じられ、何度も時計を見た。実際の時間が三十分を過ぎた頃、看護師に呼ばれ、カーテンで仕切られたベッドがたくさんある部屋に入った。

 その中のひとつ、閉じられていたカーテンの中に進むと母が寝ていた。

「今は点滴をして眠っています。医師が来るまでお待ちください」

 ベッドの近くにある丸椅子を勧められ、腰をおろす。

 生きている。よかった。本当に。

 安心から鼻の奥がツンとして涙が流れた。
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