陰謀のための結婚
「香澄。私、入院ですって」
あれほど嫌がっていた入院を喜ぶ母に、目を瞬かせる。それに、倒れるほどの痛みだったはずの腰を、気にする様子もない。
「今、腰は大丈夫なの? 痛くない?」
「ええ。痛み止めが効いて、よく眠れたわ。入院して、少しのんびりしようかしら。あなたもせっかくのお休みなんだから、どこかで羽を伸ばしてらっしゃい」
能天気な母に、拍子抜けする。ここ最近沈んでいた母とは、別人と思えるほどの変わりぶり。
手続き等でさきほどより時間も過ぎ、点滴の液も減っている。痛み止めが効いてよく眠れたというのは、私に心配をかけまいとした強がりというわけでもなさそうだ。
それでも眉根を寄せる。
「お母さんが倒れたのに、遊んでなんていられないわ」
「お母さん、また働けることになって。嬉しくて、つい無理をしちゃったのよ。早く手術でもなんでもして、元気にならないと」
「働いたら、また腰を痛めない?」
明るく前向きになっているのだから応援すべきなのに、素直に「頑張って」とは言えない。
「大丈夫よ。力仕事でも立ち仕事でもないから。また詳しく決まったら教えるわ」
こんなに母の弾んだ声を聞くのは、久しぶりだ。