陰謀のための結婚
「このまま騙して結婚しろと言うんですか?」
唯一言えた意見も、三矢の前では意味をなさなかった。
「騙してはいない。きみは生物学上、わたしの娘だ。そして妊娠できる体だと言ってはいない。黙っているだけで、騙しているわけではない」
そんなの詭弁だ。そう反論したいのに、三矢は続けて言った。
「まずは前金として、金を振り込んだ。今後も期待している」
電話は一方的に切れた。たとえまだ話す時間があったとしても、なにも言えなかったと思う。
「ハハ。こっちが要求しなくても、振り込まれて良かったじゃない」
誰に言いたいのかわからない独り言がこぼれた。
見上げると細い月が浮かぶだけの空。寂しさに襲われて、涙が出そうになった。
アパートまで歩く。電車に乗りたくなかった。距離はあるけれど、なにも考えたくなかった。
アパートに辿り着くと、疲れ切った体をベッドに転がした。全てを投げ出してしまいたかった。