陰謀のための結婚
メールは、あのあと《城崎智史さん、ですよね?》と、一応確認したところ、《ごめん。名乗っていなかった。城崎智史です》と返ってきた。
「城崎さんなら、女性にも慣れていらっしゃるでしょう?」
「きみは特別だ。それに智史と呼んで、俺も香澄ちゃんと呼ばせてもらうから」
あの日は香澄と呼ばれ、彼から逃げられなくなった。
思い出しそうになって、慌てて映像を頭から追い出す。
「香澄ちゃんには、失態ばかり見せているな」
頭をかきながら、苦笑する智史さんを見つめて首を傾げる。
「失態なんて、ありました?」
彼は完璧なくらい整っていて、所作も気品が漂っている。メールで名乗らなかったけれど、礼節は弁えていると思う。
「いや、前回の俺の行動を失態と捉えられていないのなら、助かるよ」
前回の行動と言われ、ハタと気づく。あまりにも現実離れしていたせいで、キスをしたのは自分の妄想と思い込んでいた。
「いえ、あの、そういうわけじゃ」
焦る私を見て、智史さんはフッと笑う。
「会ったばかりで失礼な行動する男の顔なんて見たくないって言われるかと思って、だからメールは緊張した。これで信じた?」
「それは、はい。そう、ですね」
私だって思っていた。本来なら引っ叩いたっていい。そもそもキスは避けられたし、なんなら突き飛ばしたってよかった。