陰謀のための結婚
扉を開くと、そこにはスーツを着たニ名の男性が壁に沿って立っていた。部下か、ボディガードなのだろう。雰囲気に飲まれそうになり、グッと堪える。
そしてそのニ名を従えてひとりテーブルに着く人物が、私の姿を確認してから口を開いた。
「きみは、芹澤香澄だね」
「はい」
どう挨拶すればいいのかわからず、返事だけをすると「まあ座りなさい」と尊大に言われた。
感動の再会にはなりそうにない。彼から愛情や温もりは少しも感じられない。
「私は、三矢不動産の代表取締役をしている三矢だ。まずは食事をとろう」
彼がそう言うと料理が運ばれ、目の前に並べられていく。食べないわけにもいかず、生きた心地がしないまま機械的に口に運んだ。味なんてわかるわけもない。
三矢とは、三矢不動産だろうという予想が外れなかった事実に、想像以上に戸惑っていた。