陰謀のための結婚
期間限定の関係
頬がくすぐったくて、「んんー」と寝ぼけた声が出る。
「おはよう。案外、お寝坊さんなんだね」
男性の声を聞き、違和感を感じて少しずつ意識を手繰り寄せる。
目を開けると、形のいい唇がゆっくりと弧を描いた。
「キスで目覚めさせようか」
近づいてくる顔を思わず両手で制止する。
「待って、ください」
「なんだ。拒否もできるんだ」
彼の言葉に引っ掛かりを覚えたけれど、彼は体を離して起き上がった。
「浴衣を整えてから起きておいで。ま、俺はそのままでもうれしいけどね」
彼の去っていく後ろ姿を眺めてから、自分の姿を確認して絶句する。胸元ははだけているし、脚の方も太ももくらいまで浴衣が捲れてしまっている。
慌てて整えてから、気まずい思いで隣の部屋に顔を出す。
「お見苦しいものをお見せして」
「そんなわけないでしょう。目のやり場に困っただけで」
視線を逸らす智史さんを恨めしく思いながら、話題を変えようと今日の予定を確認する。
「今日は温泉街を歩いてみるんですよね?」
「ああ。食べ歩きができるらしい。外に出掛けられる浴衣の貸し出しもあるから、着付けてもらって出かけよう」