陰謀のための結婚
その横を若い恋人が通り過ぎた。仲睦まじく体を寄せ合う距離は、私たちの比にならないくらいに近い。
「俺も独占欲が大概だな。日傘。せっかく借りたんだから、差そう」
借りた傘は和日傘。和紙が日に当たると透ける様が美しく、浴衣にとてもよく似合う。華やかな傘もあり、選んでいたのに、借りたのは男性用の白い傘一つだけ。
『俺が持つから』と言われ、二つ借りないのかなと思いつつ、彼に従った。その一つの傘を彼が開く。
傘を開き、肩にかけた彼は腰を屈めて「ほら、香澄ちゃんも入って」と体を近づけた。
覆いかぶさるように体が近づいて、唇が触れる。
「え」
驚いて後退りして、下駄がカランと音を立てた。
「俺だけ見てなさい。じゃないと閉じ込めておきたくなる」
頬を撫でられ、もう一度唇が触れる。傘で隠れているとはいえ、外でキスをするなんてと動揺しているのに、顔が熱くて堪らない。
「行こう」
手を引かれ、歩き出した。