陰謀のための結婚

「いや、かわいいなあって」

「智史さんはお世辞が過ぎます」

「本心だって」

 口を開けば『かわいい』『似合ってる』『綺麗だ』『素敵だ』と褒め倒される。お陰で周りの女性から、声にならないため息が聞こえてくる。

「私もどちらかと言えば、クールだとか、表情がわかりづらいとか、よく言われる方で、かわいいだなんて子どもの頃にも言われたかどうか」

 なにも期待しない子どもだった、と言うのが正しいかもしれない。日々目立たないように暮らし、多くは望まない生活。

 忙しい母と、旅行も数えるほどしか行っていない。

 過去を思い返していると、彼は頬を緩ませて言った。

「俺にしか引き出せない表情なら、うれしいよ」

 彼にかかれば、どんな私もすごく素敵な女性に思えた。
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