陰謀のための結婚

 会話は皆無の食事がひとしきり済んでから、彼は唐突に言った。

「香澄。きみには、城崎リゾートの御曹司と結婚してもらう」

 刮目して、目の前の男を見遣る。

 今まで音沙汰もなく放っておいて、なにを言っているんだ、この男は。
 呆れたものの、まだ本音をぶつける段階ではないと判断し、冷静に切り返す。

「どうして、と伺ってもよろしいですか」

「最近倒れたらしいね」

 ピクリと眉が動きそうになり、目を閉じる。

「ええ、はい。そうです」

「母親も腰を悪くしている。将来が不安だろう? いい話だと思うのだが」

 女手ひとつで育ててくれた母。無理がたたって腰を悪くしてしまった。今は満足に働ける体ではない。

 だからせめて私が働かなければとの思いから、働き詰めで今度は自分が倒れた。
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