陰謀のための結婚

「それに、俺も考えなしにきみに手を出したわけじゃない」

 優しかった眼差しに、妖しい雰囲気が混ざった気がして、落ち着かない気持ちになる。

「ひと目惚れと言葉にすると、陳腐に感じるが、初めて会ったときからきみに惹かれた」

 改めて語られる彼の気持ち。ただ、穏やかでない話が続きそうで、心して彼の言葉を待つ。

「自分の気持ちを正しく判断したくて、色々と試させてもらった。車で寝ていいと言ってみたり、ね」

「じゃ、私の行動には幻滅されましたよね」

 試していたなんて酷い。とは言えなかった。彼ほどの人だ。そのくらい考えていても不思議じゃない。

「いや、自然体で好感が持てた。ほかにも初日は敢えて寝たふりをしてみたり」

「え? 起きてらしたんですか⁉︎」

「ああ」

 不穏な視線を向けられて、なにか醜態を晒しただろうかと懸命に思い返す。
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