陰謀のための結婚
「それで、香澄は旅行に行ってたの?」
母の質問にドキリとする。母の視線は旅行バッグに向けられている。
「うん。たまたま行こうかって誘われて」
「そう。良かったわ。楽しんできた?」
「楽しかったよ。うん」
母は目を細めて言う。
「香澄はもっと遊んでいいのよ。奥住さんと話してて、ハッとしたの。奥住さんのお子さんは男の子らしいんだけどね、毎日遊び呆けててって」
母は顔を背け、窓の外を見つめて言う。
「ごめんなさいね。今まで苦労かけてきたでしょう」
突然の謝罪に鼻の奥がツンとする。
「ヤダ。どうしたの、急に」
母は窓から視線を戻し、私を真っ直ぐに見つめて言った。
「お母さん、自分の分くらい自分で働くから、香澄は香澄の幸せを考えて」