陰謀のための結婚

 智史さんに想いを馳せていると、玲奈がこそっと耳打ちをする。

「口元、緩んでますよ。幸せオーラだだ漏れですから、おじさんたちにつっこまれます」

 言ってるそばから、話し好きな野島さんが「なんだ。香澄ちゃん、男でもできたか」と豪快に言う。

 ちょっと野島さん、声が大きいです。

 心の声も野島さんには届かない。実際に言ったところで、効果は薄いから諦めている。

「なんだ、なんだ。香澄ちゃんにもとうとう男ができたか」

「そうか、春が来たか」

 数名が話に乗り、盛り上がりをみせる。

「そりゃそうだ。あの腰つきを見りゃわかる」

 あまりの言われ方に、玲奈が鬼の形相で立ち上がった。

「野島さん! それ完全にセクハラですからね!」

「あー。こりゃすまん。許してちょ。香澄ちゃん」

 慌てて手を合わせ、頭を下げている。悪い人ではないのは、長い付き合いで知っている。

「次はありませんから!」

 玲奈が腕組みをして、フンと鼻を鳴らすと、頭をかきながらおじさんたちはそそくさと工場の方に戻っていく。

 ありがとう玲奈。心の中でお礼を言い、玲奈には少しくらい話さなきゃなあと反省をした。
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