天敵御曹司はひたむき秘書を一途な愛で離さない
兄と対決
北海道出張から一カ月経ったある日の夕方、穂乃果の家を拓巳が訪れた。
出迎えた両親とリビングでお茶を飲んでいる。言うまでもなく、結婚の挨拶に来たのである。
父親はまだ少し複雑そうではあるものの拓巳を温かく迎え入れ、母は大喜びで、拓巳にアレコレ話しかけている。
でも肝心の兄がこの場にいないことに、穂乃果はやきもきしていた。
今日は拓巳が来るからこの時間には家にいるように頼んであったにもかかわらず、だ。
兄には父から拓巳と穂乃果のことについて、あらかじめ話をしてもらってある。それについて直接何かを言われたわけではないけれど、そもそも顔を合わせていない。ほとんど家に帰ってこなくなったからだ。
「もう、和馬ったら。本当子供みたいなんだから……。ごめんなさいね、拓巳さん」
母が困ったように拓巳に謝った。
「いえ、僕は大丈夫です。とても穂乃果さんを大切にされていたんですね。穂乃果さんから話を聞きました」
「まぁ、そうね……もともと八歳離れてるから、穂乃果が生まれた時ものすごく喜んだんですよ。可愛い可愛いって、ずっと腕に抱いて」
母は懐かしむように目を細めた。
「後から聞いた話だけど、うちの会社はこのあたりでは目立つから、小さい頃は和馬も苦労したみたい。何をしてもどうしてもアレコレ言う人はいますから。その苦労を知ってるから、穂乃果には過保護になっちゃうのね。穂乃果の交友関係に口を出すのはそのせいなんですよ」
どこかしんみりとしては話しをする母の言葉に、約束を破られて腹立たしさでいっぱいだった穂乃果の頭がスッと冷えて少し落ち着く。心あたりがあったからだ。
『二ノ宮さんとこの娘さん』
よく言われた言葉だった。
近所には、関連会社で働いている人も多いから、大人たちはそれなりに親切にしてくれた。恵まれている部分もあったとは思うが、子供だけの世界ではまた違った捉え方をされることも多かった。
『穂乃果ちゃんってしゃちょーれーじょーなんでしょ?』
『だからワガママなんだー』
自分の意見を言っただけでそう言われたこともある。
そんな時、相談に乗ってくれたのは兄だった。
『生まれた環境は変えられない。自分がどう生きるかだ。穂乃果にはお兄ちゃんがいるからな』
そう言って穂乃果を励ましてくれた。
母がやれやれというようにため息をつく。
「私たちよりも穂乃果のことを考えていたんじゃないかしら。だから穂乃果が幸せになれるなら、きっと最後は賛成するはずなんですけど……」
母がそう言った時。
「勝手に俺の気持ちを決めないでくれる? 母さん」
入口から声がして、皆がそちらへ注目する。スーツ姿の和馬が立っていた。
「お兄ちゃん」
穂乃果が呼びかけると、和馬は憮然としたまま、ツカツカとリビングに入ってくる。そして拓巳と穂乃果のところまできて立ち止まった。
拓巳が立ち上がり「はじめまして、獅子王拓巳です」と挨拶をしても、答えずに腕を組んで睨んでいる。その態度に、さっきしんみりしたことも忘れて穂乃果は声を上げる。
「お兄ちゃん、ご挨拶してよ」
それでも兄は態度を変えなかった。
「俺が呼んだ客じゃない。俺は会うと言っていない」
そんなことまで言うものだから穂乃果は、腹を立てる。
「信じられない! 初対面の方にそんなこと言うなんて。社会人としてあり得ないわ。お兄ちゃん二ノ宮の副社長でしょう? 拓巳さんは獅子王の副社長なのよ。仕事でも関わることになるかもしれないのに……」
「今は立場は関係ない」
和馬が言い切った。
「俺は兄として、この男がお前に相応しいかどうかを見定める義務がある」
「その通りです」
拓巳が穏やかに口を開いた。
「お兄さんは穂乃果さんを大切にされていたそうですね。だからどうしても結婚のお許しいただきたいと思っております」
和馬が訝しむように目を細めた。
「獅子王さん、話を聞いてから私は知り合いの同業者にあなたの評判を聞いて回りました」
「ちょっ……! お兄ちゃん!」
家に帰ってこない間、そんなことをしていたのかと穂乃果は兄の言葉に目を剥いた。
「……残念ながら、どこで誰に話を聞いてもあなたの評判は非常にいい。よすぎるくらいです。獅子王社長の息子だと知る前は、あなたを引き抜いて後継にしたかったと言う社長もいたくらいですよ」
そこで和馬は言葉を切って、拓巳を睨んだ。
「だからこそ、俺は納得いかない。どうして穂乃果なんです? 穂乃果は可愛いですが、普通の子です。あなたの華々しい経歴からすると少々釣り合わないような気がする。なにか企んでいるんでは?」
「お兄ちゃん‼︎」
たまらずに穂乃果は立ち上がる。ソファを回り込み兄のそばに行って彼をなじる。
「企んでるなんて、そんなわけないじゃない!」
和馬が穂乃果に向かって、口を開く。
「穂乃果、お兄ちゃんは穂乃果のためを思って言っているんだ。噂ではこの男は獅子王社長の息子だとはじめは秘密にしていたんだろう? 周囲を騙すようなやり方も俺は気に入らない。失敗しても自分の名前に傷がつかないように、逃げ道を用意していたんだろう」
「お兄ちゃん!」
拓巳を卑怯者だと言わんばかりのその言葉に、穂乃果の頭に血が昇る。
「なにも知らないくせにそんなこと言わないで!」
入社から三年と少し、拓巳のすぐそばでずっと一緒に働いて彼の努力を見続けていた穂乃果だからこそ、その言葉は許せなかった。顔を真っ赤にして兄をなじる。
「そこまで言うなら、もうお兄ちゃんの許しなんていらないわ! お兄ちゃんがどう言おうと私は拓巳さんと結婚するんだから! お兄ちゃんなんて大嫌い! 大嫌い!」
拓巳が穂乃果の肩を抱き、さりげなく止めようとするのも構わなかった。
兄を睨み、大嫌いと繰り返す。
和馬は目を見開いてしばらく絶句していたが、突然力が抜けたように、その場に崩れ落ち、床に座り込み顔を伏せた。
「え? ちょ……。 お、お兄ちゃん……?」
予想外の兄の反応に、穂乃果は唖然として呼びかける。
だが返事はなかった。
代わりにもっと意外な反応が返ってくる。驚くべきことに和馬は肩を震わせて、シクシクと泣いているではないか。
「……な、なにも泣くことはないじゃない」
声をかけると、「うるさい」と弱々しい返事が返ってきた。
「お兄ちゃんはお前が生まれた時からそばにいるんだぞ。おむつだって替えたんだ。そのお前が結婚するなんて許せるわけがないだろう……」
相変わらず言っていることはめちゃくちゃだが、随分と勢いはなくなっている。
「お兄ちゃん……」
そんな和馬の反応に、穂乃果の頭の中を兄と共に過ごしたたくさんの思い出が駆け巡った。
穂乃果が小学生の頃は、父と母は忙しくてあまり家にはいなかったから、兄と一緒にいることの方が多かった。毎日、夜ご飯を作ってくれていた時期もあったくらいだ。
宿題も見てくれた。
塾まで迎えに来てくれた。
学校で嫌なことを言われた時、仲間はずれにされた時、真っ先に相談するのは兄だった。
ずっと大切にしてくれたのだ。きっと兄は相手が誰であろうとも、穂乃果の結婚にすぐに納得できなかっただろう。
「お兄さん」
座り込んだままの和馬に、拓巳が語りかけた。
「確かに私は、社員に嘘をついて働いていた時期がありますから信用できないと言われても仕方がない。でも穂乃果さんを愛してるというのは、絶対に嘘じゃありません。これは私が生きている限り変わりません。穂乃果さんをずっと大切にされてきたお兄さんを裏切るようなことは絶対にないと言い切れます」
穏やかな拓巳の言葉に、和馬が顔を上げる。
穂乃果も拓巳に習って兄に向かって口を開く。
「お兄ちゃん、拓巳さんは信用できる人だわ。入社以来ずっとそばで働いていた私はそう言い切れる。確かに皆拓巳さんが社長の息子だなんて知らなかったけど、本当のことを知っても騙されたなんて言う人はいなかった。彼が副社長になってくれるなら、会社の将来は明るいって喜んでいたのよ」
和馬がチラリと拓巳を見て、また穂乃果に視線を戻す。そして拗ねたように反論する。
「……だが、社会的な信用とプライベートはまた別だ」
さっきは会社でのやり方が気に入らないから信用できないと言ったくせに、真逆のことをいう兄に、穂乃果はくすりと笑ってしまう。
隣で拓巳が力強く言い切った。
「絶対に、穂乃果さんを裏切ったりはしません」
兄はため息をついて穂乃果を見る。
「……穂乃果は、信用してるのか」
「うん」
「……結婚したいのか」
「したいわ」
迷いなくはっきりとそう言うと、和馬はため息をついて立ち上がり穂乃果たちに背を向ける。
「わかった。好きにしろ」
言い方は乱暴だが、この場で兄が言える最大限の譲歩の言葉だ。しょんぼりとするその背中に、穂乃果の胸は熱くなった。
「ありがとう、お兄ちゃん」
そのままリビングの出口へ向かう和馬に、母が問いかける。
「ちょっと和馬、どこ行くのよ」
「……会社。仕事がまだ残ってる」
そう言って、部屋を出ていった。
「やけ酒だな」
父が苦笑しながら呟いた。
出迎えた両親とリビングでお茶を飲んでいる。言うまでもなく、結婚の挨拶に来たのである。
父親はまだ少し複雑そうではあるものの拓巳を温かく迎え入れ、母は大喜びで、拓巳にアレコレ話しかけている。
でも肝心の兄がこの場にいないことに、穂乃果はやきもきしていた。
今日は拓巳が来るからこの時間には家にいるように頼んであったにもかかわらず、だ。
兄には父から拓巳と穂乃果のことについて、あらかじめ話をしてもらってある。それについて直接何かを言われたわけではないけれど、そもそも顔を合わせていない。ほとんど家に帰ってこなくなったからだ。
「もう、和馬ったら。本当子供みたいなんだから……。ごめんなさいね、拓巳さん」
母が困ったように拓巳に謝った。
「いえ、僕は大丈夫です。とても穂乃果さんを大切にされていたんですね。穂乃果さんから話を聞きました」
「まぁ、そうね……もともと八歳離れてるから、穂乃果が生まれた時ものすごく喜んだんですよ。可愛い可愛いって、ずっと腕に抱いて」
母は懐かしむように目を細めた。
「後から聞いた話だけど、うちの会社はこのあたりでは目立つから、小さい頃は和馬も苦労したみたい。何をしてもどうしてもアレコレ言う人はいますから。その苦労を知ってるから、穂乃果には過保護になっちゃうのね。穂乃果の交友関係に口を出すのはそのせいなんですよ」
どこかしんみりとしては話しをする母の言葉に、約束を破られて腹立たしさでいっぱいだった穂乃果の頭がスッと冷えて少し落ち着く。心あたりがあったからだ。
『二ノ宮さんとこの娘さん』
よく言われた言葉だった。
近所には、関連会社で働いている人も多いから、大人たちはそれなりに親切にしてくれた。恵まれている部分もあったとは思うが、子供だけの世界ではまた違った捉え方をされることも多かった。
『穂乃果ちゃんってしゃちょーれーじょーなんでしょ?』
『だからワガママなんだー』
自分の意見を言っただけでそう言われたこともある。
そんな時、相談に乗ってくれたのは兄だった。
『生まれた環境は変えられない。自分がどう生きるかだ。穂乃果にはお兄ちゃんがいるからな』
そう言って穂乃果を励ましてくれた。
母がやれやれというようにため息をつく。
「私たちよりも穂乃果のことを考えていたんじゃないかしら。だから穂乃果が幸せになれるなら、きっと最後は賛成するはずなんですけど……」
母がそう言った時。
「勝手に俺の気持ちを決めないでくれる? 母さん」
入口から声がして、皆がそちらへ注目する。スーツ姿の和馬が立っていた。
「お兄ちゃん」
穂乃果が呼びかけると、和馬は憮然としたまま、ツカツカとリビングに入ってくる。そして拓巳と穂乃果のところまできて立ち止まった。
拓巳が立ち上がり「はじめまして、獅子王拓巳です」と挨拶をしても、答えずに腕を組んで睨んでいる。その態度に、さっきしんみりしたことも忘れて穂乃果は声を上げる。
「お兄ちゃん、ご挨拶してよ」
それでも兄は態度を変えなかった。
「俺が呼んだ客じゃない。俺は会うと言っていない」
そんなことまで言うものだから穂乃果は、腹を立てる。
「信じられない! 初対面の方にそんなこと言うなんて。社会人としてあり得ないわ。お兄ちゃん二ノ宮の副社長でしょう? 拓巳さんは獅子王の副社長なのよ。仕事でも関わることになるかもしれないのに……」
「今は立場は関係ない」
和馬が言い切った。
「俺は兄として、この男がお前に相応しいかどうかを見定める義務がある」
「その通りです」
拓巳が穏やかに口を開いた。
「お兄さんは穂乃果さんを大切にされていたそうですね。だからどうしても結婚のお許しいただきたいと思っております」
和馬が訝しむように目を細めた。
「獅子王さん、話を聞いてから私は知り合いの同業者にあなたの評判を聞いて回りました」
「ちょっ……! お兄ちゃん!」
家に帰ってこない間、そんなことをしていたのかと穂乃果は兄の言葉に目を剥いた。
「……残念ながら、どこで誰に話を聞いてもあなたの評判は非常にいい。よすぎるくらいです。獅子王社長の息子だと知る前は、あなたを引き抜いて後継にしたかったと言う社長もいたくらいですよ」
そこで和馬は言葉を切って、拓巳を睨んだ。
「だからこそ、俺は納得いかない。どうして穂乃果なんです? 穂乃果は可愛いですが、普通の子です。あなたの華々しい経歴からすると少々釣り合わないような気がする。なにか企んでいるんでは?」
「お兄ちゃん‼︎」
たまらずに穂乃果は立ち上がる。ソファを回り込み兄のそばに行って彼をなじる。
「企んでるなんて、そんなわけないじゃない!」
和馬が穂乃果に向かって、口を開く。
「穂乃果、お兄ちゃんは穂乃果のためを思って言っているんだ。噂ではこの男は獅子王社長の息子だとはじめは秘密にしていたんだろう? 周囲を騙すようなやり方も俺は気に入らない。失敗しても自分の名前に傷がつかないように、逃げ道を用意していたんだろう」
「お兄ちゃん!」
拓巳を卑怯者だと言わんばかりのその言葉に、穂乃果の頭に血が昇る。
「なにも知らないくせにそんなこと言わないで!」
入社から三年と少し、拓巳のすぐそばでずっと一緒に働いて彼の努力を見続けていた穂乃果だからこそ、その言葉は許せなかった。顔を真っ赤にして兄をなじる。
「そこまで言うなら、もうお兄ちゃんの許しなんていらないわ! お兄ちゃんがどう言おうと私は拓巳さんと結婚するんだから! お兄ちゃんなんて大嫌い! 大嫌い!」
拓巳が穂乃果の肩を抱き、さりげなく止めようとするのも構わなかった。
兄を睨み、大嫌いと繰り返す。
和馬は目を見開いてしばらく絶句していたが、突然力が抜けたように、その場に崩れ落ち、床に座り込み顔を伏せた。
「え? ちょ……。 お、お兄ちゃん……?」
予想外の兄の反応に、穂乃果は唖然として呼びかける。
だが返事はなかった。
代わりにもっと意外な反応が返ってくる。驚くべきことに和馬は肩を震わせて、シクシクと泣いているではないか。
「……な、なにも泣くことはないじゃない」
声をかけると、「うるさい」と弱々しい返事が返ってきた。
「お兄ちゃんはお前が生まれた時からそばにいるんだぞ。おむつだって替えたんだ。そのお前が結婚するなんて許せるわけがないだろう……」
相変わらず言っていることはめちゃくちゃだが、随分と勢いはなくなっている。
「お兄ちゃん……」
そんな和馬の反応に、穂乃果の頭の中を兄と共に過ごしたたくさんの思い出が駆け巡った。
穂乃果が小学生の頃は、父と母は忙しくてあまり家にはいなかったから、兄と一緒にいることの方が多かった。毎日、夜ご飯を作ってくれていた時期もあったくらいだ。
宿題も見てくれた。
塾まで迎えに来てくれた。
学校で嫌なことを言われた時、仲間はずれにされた時、真っ先に相談するのは兄だった。
ずっと大切にしてくれたのだ。きっと兄は相手が誰であろうとも、穂乃果の結婚にすぐに納得できなかっただろう。
「お兄さん」
座り込んだままの和馬に、拓巳が語りかけた。
「確かに私は、社員に嘘をついて働いていた時期がありますから信用できないと言われても仕方がない。でも穂乃果さんを愛してるというのは、絶対に嘘じゃありません。これは私が生きている限り変わりません。穂乃果さんをずっと大切にされてきたお兄さんを裏切るようなことは絶対にないと言い切れます」
穏やかな拓巳の言葉に、和馬が顔を上げる。
穂乃果も拓巳に習って兄に向かって口を開く。
「お兄ちゃん、拓巳さんは信用できる人だわ。入社以来ずっとそばで働いていた私はそう言い切れる。確かに皆拓巳さんが社長の息子だなんて知らなかったけど、本当のことを知っても騙されたなんて言う人はいなかった。彼が副社長になってくれるなら、会社の将来は明るいって喜んでいたのよ」
和馬がチラリと拓巳を見て、また穂乃果に視線を戻す。そして拗ねたように反論する。
「……だが、社会的な信用とプライベートはまた別だ」
さっきは会社でのやり方が気に入らないから信用できないと言ったくせに、真逆のことをいう兄に、穂乃果はくすりと笑ってしまう。
隣で拓巳が力強く言い切った。
「絶対に、穂乃果さんを裏切ったりはしません」
兄はため息をついて穂乃果を見る。
「……穂乃果は、信用してるのか」
「うん」
「……結婚したいのか」
「したいわ」
迷いなくはっきりとそう言うと、和馬はため息をついて立ち上がり穂乃果たちに背を向ける。
「わかった。好きにしろ」
言い方は乱暴だが、この場で兄が言える最大限の譲歩の言葉だ。しょんぼりとするその背中に、穂乃果の胸は熱くなった。
「ありがとう、お兄ちゃん」
そのままリビングの出口へ向かう和馬に、母が問いかける。
「ちょっと和馬、どこ行くのよ」
「……会社。仕事がまだ残ってる」
そう言って、部屋を出ていった。
「やけ酒だな」
父が苦笑しながら呟いた。