天敵御曹司はひたむき秘書を一途な愛で離さない
ふたりの家へ
 副社長へ戻ると、窓の外の日が沈んだ街はキラキラと輝いていた。
「副社長、おつかれさまでした」
 机の上のパソコンをシャットダウンさせている拓巳に向かって穂乃果は声をかける。
「本日の予定はすべて終わりです。迎えの車を十五分後に下に準備いたしたます」
「ん、二ノ宮さんも一週間おつかれさま」
 彼の言葉に頷くと、穂乃果の胸に心地のいい充実感が広がっていく。そう、今日は金曜日、今週も一週間よく働いた。
「じゃ、帰ろか。穂乃果」
 微笑んで拓巳が机を回り込み、穂乃果の近くへやってくる。穂乃果の胸がとくんと鳴った。
 彼が自分を名前で呼ぶ時のは、今からプライベートに切り替えるという合図だからだ。これからふたりは同じ場所へ一緒に帰る。
 婚約期間中の今は、まだ穂乃果は実家に住んでいて普段は別々に帰るのだが、金曜日の夜は彼のマンションへ行きふたりで過ごすというのが定番となっている。彼の手料理をご馳走になり、ゆっくりとお風呂に入る。そしてその後……。
「一週間業務のサポートをしてくれた穂乃果に、今夜は俺が尽くす番だな」
 少し戯けてそんなことを言いながら、拓巳が穂乃果を腕の中に閉じ込めた。
 本当にその言葉通りこれから至れり尽くせりの激甘の夜が待っている。それはとても嬉しいのだけれど、少し申し訳ない気持ちにもなって、穂乃果は彼を見上げた。
「でも拓巳さんだって疲れているでしょう?」
「ああ、疲れてるよ。だから穂乃果を可愛がるんだ。一週間に一度の俺の癒しの時間だ」
 その言葉に、穂乃果は思わず噴き出した。
「もうっ! 拓巳さんったら」
『釣った魚には餌をやりまくる』
 いつかの日そう言っていた拓巳の言葉を、本当のところ穂乃果は完全に信じていたわけではなかった。彼が全力で穂乃果を甘やかしていたのは、やっぱり穂乃果を落とすための作戦だったのだろう、と。
 でも今はそんな風には思っていない。
 無事にすべてが解決し、ふたりの間になんの障害もなくなった後も金曜日の夜の甘やかしはより一層ひどくなるばかりだからだ。
「まず俺の作ったご飯で穂乃果のお腹をいっぱいにさせる。その後、風呂でマッサージをしてふにゃふにゃなったところを抱くと俺の一週間の疲れが取れるんだ」
 拓巳はそう言ってはははと笑う。
「普通に抱くのでは物足りないくらいだな」
「もうっ! 拓巳さん、変態……!」
 穂乃果は頬を膨らまして、拓巳を睨む。でも胸には温かな思いが広がっていた。
 こんな風に幸せな結末を迎えられたことが嬉しくて仕方がない。彼が獅子王不動産の御曹司だと知った時は、告白したことを心の底から後悔した。時を戻したいと思ったくらいだ。
 でも今は勇気を出してよかったと、心から思う。
彼の胸に抱きついて大好きな香りを胸いっぱいに感じ取る
 尊敬する上司としての彼と、愛する人としての彼。
 どちらの彼ともずっと一緒にいられる自分は間違いなくこの世界で一番幸せだ。
「拓巳さん、大好き」
 彼のシャツに頬ずりをして穂乃果が言うと、頭に優しいキスが降ってきた。

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