家出少女と恋愛小説家
「おい」

「!?」

 後ろから佐伯の声がした。佐伯の帰宅にも気づかなかったようだ。机の置き時計を見ると、いつの間にかお昼を過ぎていた。

「勝手に入っちゃってごめんなさい!」

 佐伯は腕を組んで柱にもたれかかり、呆れた様子で志保美を見下ろした。

「俺の小説読んでたの?」

「失礼ながら、昨日の夜は佐伯さんがあの小説家の『佐伯龍太朗』だとは気づきませんでした。佐伯さんの小説おもしろすぎて読んでました」

「どれ?」

「これです…」

 志保美はおずおずと佐伯に小説のタイトルを見せた。

「俺の処女作だ。文体も堅いし表現力も乏しいだろ」

「素人には分からないですけど、とにかく引き込まれました。結末がすごく気になります!」

「そう。読んでもいいけど、他の部屋で読んでくれるか?仕事がしたい」

「あ、すいません。他にも何冊か借りていいですか?」

「お好きにどうぞ」

 志保美は本棚から何冊か本を抱えて持ち出した。

「ああ、昼まだだったら弁当あるぞ。居間のテーブルに置いてある」

「ありがとうございます!」

 志保美は自室に戻り、佐伯の小説を読み続けた。
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