腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる
プロローグ

 バスルームにシャワーの流れる音が反響していた。

 シャワーを浴びようとしたところで、突然後ろから誰かに抱きしめられる。
 驚いて後ろを向くと、悪びれない優しい笑顔の彼がそこにいた。

 それにしても、突然、どうしたんだろう。でも、そうされることが嬉しくて私も微笑むと、キスをされた。

 ちゅ、ちゅ、と啄むようなキスを繰り返す。
 いつの間にか、シャワーの音は聞こえなくて、二人、夢中でキスを交わしていた。

 振り向いた私の右手を彼の大きな左手が包む。
 汗ばむ額にキスをされたあと、

「可愛い、もも」

 目の前でまた彼が優しく微笑む。

 いつも言われる『可愛い』とは全く違う音色の声に、胸の奥がきゅっと掴まれた気がした。

「ずっとこうしたかった。優しくするから」

 思った通りの優しい手つきに目を瞑る。

 あぁ、やっとだ。
 本当にやっとこの日が来たんだ……。

 気持ちよくて、身体がふわふわする。
 でもどうしても眠くなって、そっと目を閉じた。
< 1 / 218 >

この作品をシェア

pagetop