腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる

 しかし、無慈悲にも頬を引っ張ってみても、叩いてみても、夢から覚める気配はない。

(なぜ、夢じゃない!)

 先生の手が私に伸びる。

「ひっ……!」

 思わず肩をすくめると、先生は苦笑して、私の髪を優しく撫でた。

「大丈夫。普段の僕は理性的だから」

(それは大丈夫と言えることなの?)

「念のため、夜はできるだけ病院の仮眠室で眠ってたんだけど……。今になってまた現れて、しかもももの前で現れたのは自分でも驚いた。かと言ってすぐ打ち明ける勇気もなくて、ももには夢ってことにしてしまったんだ。でも、また次の夜もももの前に現れたでしょ」

 そうだ、二度、今日まで夜の先生に遭遇した。
 すると、先生は私の首筋に触れる。

「ここのキスマーク見た時、夢だと思いたかったけど、また出てきたんだって確信した」
「そ、それだけじゃなくて……昨日の夜もっと色々されたんですよ⁉︎」

 泣きそうになりながら抗議する。
 全身ギシギシ言ってるし、キスマークなんて数えきれないほどある。

「あー……うん、そう、だよね。すごくスッキリしてるし……」

 先生が気まずそうに口元に手を当てた。

(っていうか、スッキリしてるってなにが!)

 思わず泣きそうになる。

「こ、これ、先生の、ほ、本音? こ、こういうこと、し、したかったんですか?」

 私が言うと、先生は気まずそうに目線を逸らして、

「想像は、してた」

と言った。
 散々色んなことを学んできた私が言うのは何だけど……

(お願いだから、変なこと想像しないでくれーーーーーー!)

 もう全部夢であってほしい。
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