腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる

 悶々としていると、いつのまにか時間が過ぎていた。
 明日は仕事なのに、考え過ぎて疲れてしまった。もう寝ようとリビングのソファを立ち上がって部屋に行こうとした時、目の前にリク先生の顔があった。

「ただいま」
「ぅぁっ……!」

私は混乱して叫びそうになる。

(今、何時……?)

 とっさに時計を見ようと思ったら、無理矢理先生の方を向かされた。その荒々しい手つきに、夜の深さに、『夜の人格の先生』だと直感した。

 先生はにこりと笑うと、

「朝、面白い話してたよねぇ」
「へ……?」

 先ほど立ち上がったソファに押し戻される。
 そのまま、ソファに押し倒される形になった。

 ぎし、と私の上にのしかかった目の前の先生は、間違いなく朝の先生が言っていた『もう一人の先生』だった。

「僕がたった数時間で満足するはずないでしょ。今まで僕がどれだけ我慢してたと思ってるの?」

(じゃあ、これが先生の本音ーーー!!)

―――この本音を受け入れる勇気は、私にはまだ、ない。
< 106 / 218 >

この作品をシェア

pagetop