腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる
泣きそうになって私が先生を見上げると、先生は私をまっすぐ見つめる。
「僕が言うのはあまり説得力がないかもしれないけど……。ももは無理しないでいいんだから。そのままのももでいいんだよ。僕の本音を聞いたからって無理しなくていい」
真面目に告げられる声も、その内容も、
いつもの優しい先生そのものだ。だけど……。
「……そのままの私?」
「そうだよ。ももは、僕の父や周りからも子どものことも期待されているのがわかってるから、無理してこんなことしたんでしょ。この前も……自分から無理して」
「ち、ちがっ違います! 私は先生のことが好きだからキスだって、それ以上だってしたいと思っただけです」
慌ててそう言うと、先生は静かにひと呼吸おいた。
そして次はまた子どもに諭すみたいに優しく髪を撫でる。
「ももは元々こういうことに全然興味なかったでしょ? 結婚まで、誰ともキスもしたことなかったし……」
「それは……そうですけど……」
(昔は確かにそうだった。興味もなかった。でも、先生を好きになって、結婚してからは違った)
「次は、ももが心の準備がもっとちゃんとできてからしよう。僕だってももとの子どもは欲しいとは思うけど、こういう事って、焦ったり、無理したりしてすることでもないと思うんだ。これからもずっと僕らは夫婦なんだからタイミングはいくらでもあるよ」
先生はとっても優しい夫だ。
―――ただし、私が本当に無理していたら、の話だけど。