腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる

 いくつか水槽を見て回っていると、先生がじっと立ち止まって、大きな水槽を見上げる。繋いでいたままの私の手を強く握りしめた。

「先生……? 好きな魚でもいました?」
「自分がこっち側に立ってるなんて不思議だな。いつも『見てた』だけだから」

 そう言われて、夜の先生が言ってた『他の時間の記憶はある』って言葉を思い出す。
 自分じゃない自分と、私との記憶。

―――夜のリク先生には、私はどんなふうに映っていたんだろう。

 不思議とそんなことが気になった。
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