腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる
「だって、僕は先生って呼ばれると変な感じなんだもん」
「そう言われても」
「ほら。早く呼ばないと、このまま脱がして続きするからね」
「サイテイ!」
また、ガバッとわが身をかばいながら、泣きそうになって先生を睨む。
先生は楽しそうに私の髪をひとつかみ持ちそこにキスをすると、挑発するように私を見る。
「まさか名前知らないとかないよね」
「知らないわけないですよ! 夫なんだから」
泣きそうにながら返すと、先生はおかしくてたまらないと言った様子で吹き出す。
それからひとしきり笑った後で、ニヤリと微笑んだ。
「じゃ、ほら。呼んで」
まっすぐにそんなふうに言われるとなんだか緊張するじゃないか……。
そう思ってみても許される雰囲気ではなくて、私は息を吸って吐く。
それから、
「……リクさん」
と先生を名前で呼んだ。
『リク先生』とは呼んだことはあるけど、『リクさん』だなんて、名前を呼んだのははじめてだった。でも、何か少し先生に近づいたような気がする不思議な感覚だけが胸に残る。
先生は少し意外そうな顔をした後、心底嬉しそうに微笑んで私を強く抱きしめた。
「ちょっ! これ以上しないって言ったぁ……!」
「うん、分かったよ、今日は我慢する。分かってると思うけど、僕、我慢だけは苦手なのになぁ……」
そうボヤいた先生の声が、先生ではないただの男の人のものに聞こえた気がした。