腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる
ーーーそうしようと思ったのは、夜になって眠れなかったからだ。
他に大きな理由はない。
食べないとは分かっていても、毎日なんとなく作り続けている先生の夕食をお弁当箱に詰めて、タクシーで病院に向かっていた。
タクシーの運転手さんが、行先が病院であることを知り、調子が悪いのかと気遣ってくれたがそうではない。調子はすこぶるいい。
ただ、先生の顔が見たくなっただけだ。いや、眠れなくなったからだっけ。
もうどっちでもいい。ただ、足が動いていた。
でも、病院までの短い距離でも夜はタクシーを使ってほしいとリク先生からも口うるさいくらいに言われていたのでタクシーを使うことにしたのだ。
病院まではすぐだった。それはそうだ、歩いても10分の距離なのだ。
念のため持ってきた職員証を見せ、夜の病院の職員通用口から警備室の前を通り、病院内に入る。
救急搬送口に救急車が停まっていないからか、入院患者さんの消灯時間もとっくに過ぎているからか、病院内は暗く静まり返っていた。
「夜の病院って、昼と全然違うんだよねぇ……」
暗い中、少しの恐怖心からか、そんな独り言をつぶやく。
歩く足音すら響くので、いつもよりゆっくりとした足取りになった。でも引き返そうとは思わなかった。