腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる

 これ以上声を聞かないように引き返そうと決意する。
 だって、男の人の声まで聞こえてしまったら、それがリクさんであれば、もう戻れない気がした。

 慌ててくるりと身をひるがえして、足を踏み出す。
 その時、ドン、とスクラブの上に白衣を着た男性にぶつかってしまった。すみません、と小さく言って顔をあげると、リク先生がそこに立っていた。

「やっぱりももだ。さっき廊下で見かけて。こんな時間に、こんなとこで何してるの?」
「せ、先生こそ」

 慌てながら、でもほっとしてそう返す。
 すると、「先生?」と繰り返しながら先生の眉がピクリと動いた。

 そうか、今はもう1時を過ぎてるもんね。先生じゃない。リクさんだ。
 それも分かってて私はここに、こんな時間にきたんだ。
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