腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる

「はぁ、もう……」

 リクさんの困ったようなため息が頭上から降ってきて、そのままそっと私の背中にリクさんは腕を回す。
 前まで冷たかったリクさんの腕は、すごく温かくて心地よくなっていた。

「このまま一緒に帰ろう? 今日はただのヘルプだったし……ももをちゃんと抱きたい」

 その言葉に緊張して、リクさんの背中に回していた腕に力が籠る。

「もも? それはいいってことだよね?」
「……」

 唇を噛んで、意を決して顔をあげた時、

「先生―、リク先生―! 急患です!」

 廊下の奥から、看護師さんの声が聞こえてきた。
 私は慌ててリクさんから離れて立ち上がる。

「あ、あの、いってください。お弁当……デスクのとこに置いときます」
「ありがと、後で食べるから。今日はちゃんとタクシーで帰って。それと、明日は夜、絶対帰る」
「は、はい」
「約束ね」

 リクさんはそう言って軽いキスを私の唇に落とすと、休憩室を出て行った。

「明日……」

 さすがに、その意味くらい分かる。
 明日は、今の続きをリクさんとするんだ……。

 最初の夜は訳の分からないまま、先生と初めてしたあとでリクさんとそうなったけど……。今度は、リクさんって分かって、リクさんとするんだ……。

 そう考えると、顔が熱くなって、心臓がやけに速く脈打った。
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