腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる

 帰ってからもなかなか寝付けなかった。
 窓の外が明るくなり始めた時、玄関のかぎを開ける音がする。

(もしかして、リクさん?)

 慌てて玄関まで走ると、本当に、そこにリクさんが立っていた。

「り、リクさん……⁉ ど、どうして」
「着替えに戻っただけなんだけど……」

 そう、少し驚いたように言われて、その雰囲気に、声に、先生だと気づく。
 そうだ、もう朝なんだ。

「あ、せ、先生……ですよね」

 私が言うと、先生は優しく微笑んで、私の髪を撫でてくれた。

「寝起きのもももかわいいね」
「……あ、ありがとうございます」

 でも、いつもよりぎこちない返しになってしまったような気がした。

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