腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる

 リビングまで一緒に来ると、先生は、紙袋を差し出す。

「そうそう、これ」
「あ……」

 それは、昨夜、届けたお弁当を入れていた紙袋で……。
 私は思わず目線を反らしていた。

「もしかして、昨日の夜これを届けに来てくれたの?」
「……はい」
「ありがとう。って、食べた記憶ないんだけど、きっと食べたのは夜の僕だね。残念」

 先生はそんなことを言って、私の胸はずきりと痛んだ。

(やっぱり、先生はリクさんの時の記憶は全くないんだ……)

 私はそれを受け取ると、息を吸う。

「あ、あの、先生? 朝食食べていきませんか? すぐ作ります」
「ありがと。じゃあ一緒に作って食べようか」
「はい、先に着替えてきます」
「慌てなくていいからね」

 先生はやっぱり優しい。
 先生は先生だし、何も変わってない。

―――変わったのは……。
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