腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる

「外科の我妻先生ってわかる?」
「あぁ、あの、ファンクラブまで結成されてるっていう我妻先生」

 我妻竜司先生は、平たく言うと、とてもおモテになっている先生だ。
 リク先生と我妻先生とで西條総合病院二大イケメンドクターと言われ、リク先生は女性に関してはずっと受け流しているが、我妻先生は特定の奥さんや彼女を持たずに来るもの拒まずらしく女性さえ良ければ割り切った付き合いをしていると聞いた。実際、仕事でも、我妻先生の話題は女性患者からよく出る。

 確かに顔はかっこいいが、私は我妻先生のようなタイプは少し苦手だった。
 しかし、リク先生には『苦手な人』というのは存在していないようで、我妻先生とも仲良くしている。リク先生は本当にすごい。

「そうそう。その我妻先生がね、今朝会ったとき、急に『仲のいい奥さんによろしく』って言ってきたんだよね。昨日の夜、会ったの?」

 そう言われて、私は首を傾げる。
 顔もばっちりわかるし、会ったら覚えてそうだけど……。

「……昨日ですか? いえ、会ってないと思いますけど……」
「そっか。何だろうね?」
「そうですね。……あ」

 思わず声を出してしまった。
 もしかしたら、昨日の夜の宿直室の中の男の人って我妻先生だったのだろうか……と思ってしまったのだ。

 あの宿直室、我妻先生がよく使っている、と以前美奈さん聞いたことがある。

(最初聞いた時はよくわかってなかったけど……! 使ってるって、そういう意味か……!)
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