腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる

 驚いて振り向いたとき、私の唇に先生の唇が触れる。

「っ……」

 いつ誰が見てるかもわからない場所でのキス。
 そんなこと先生がしたのも初めてで、私は目を白黒させる。なのに、先生はふっと優しく微笑むと、私の髪を撫でた。

「もも、いってきます」

 私は、そう言って歩き出した先生の後ろ姿を見つめていた。

「唇……」

 そして、呆然として自分の唇を触る。

(今の、リク先生だよね……?)

 いつもは、唇にキスしないのに……。
 まるでリクさんみたいにそんなこと。

「いや、そもそも同じ人じゃん。先生も、リクさんも……」

 そう呟いて、私は息を吸う。
 それはやけに言い訳がましい言葉に聞こえた。

―――同じ人なんだから浮気じゃないけど、なんかすっごく浮気してる気分なんですけど……!
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