腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる

 「あぁ、もう!」と頭を掻いて歩き出そうとすると、リク先生に出くわした。
 私は少し面食らった。朝すぐにリク先生に会うのは2日連続だ。

「もも、おはよう。今日は少し早いね?」
「は、はい。おはようございます。あの……昨日オペ大変だったんですか?」

 私が聞くと、先生は優しく微笑み口を開く。

「あぁ、オペは10時には終わったよ。昨日ね、夜の僕が勝手に夜オフにしてたみたいだけど、僕が自分から夜は救急に入るって名乗り出たんだ。それに、これから夜勤はできる限りずっと担当しようと思ってる」
「なんで……」

 救急が多い時にヘルプとして入ることが多かった時とは違って、夜勤となるとオンコールを受けられるとは言え、家に帰ってくるなんてできない。

(それは、つまり、これからリクさんとは会えないってこと?)

 なんだか腑に落ちなくて先生を見上げると、先生は大事そうに私の髪を撫でる。

「前は病院にいても当番じゃなかったら、時間あけば帰ってたみたいだし。夜の僕がももを傷つけたらって思うと気が気ではなかったんだ」
「大丈夫です!」

 私は思わず大きな声を出していた。「リクさんが、私を傷つけるとか、そういうことは絶対ないですから!」

 言ってから、先生が驚いた顔をして私を見ていることに気づいた。

 そういえば、リク先生にこんな風に強くものを言ったことはなかった。
 リクさん相手で慣れすぎてしまっていたのかもしれない。
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