腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる

―――その時。

「またこんなところでそんなことしてたら、また俺に見られちゃうよ? それとも見られたいタイプ? すっごく意外」

 その声に驚いて顔をあげた。
 壁際に背をつけ立っていたのは、外科の我妻竜司先生だった。

(み、見られたっ!)

 こんな場面を他人に見られた恥ずかしさに泣きそうになる。
 そんな私を見て、我妻先生は意地悪く笑った。

「さっきまでそこで寝てたわけ。そしたら、また聞いたことある声がしてさ」

 そう言って、我妻先生は休憩室の奥の宿直室を指さす。
 なんだか恥ずかしくて、情けなくて、顔を下に下げた。

「……す、すみません! お騒がせしましたっ」
「いいよ、別に。この前は、こっちの方が騒がしかったでしょ?」

 クスリと笑ってそう言われて、この前の夜の女性の声を生々しく思い出してしまうと顔が勝手に熱くなる。
 我妻先生は、リク先生の肩を叩き、

「完璧な李久先生でも、最愛の奥さんと二人の時は人間らしい顔するんだ」

と言うと、笑って去って行った。

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