腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる

 何分それをしていたのかわからないけど、唇が離れた時、私はその場にずるずると座り込んだ。先生もしゃがみこんで私と目線を合わせて微笑み、優しい声で問うた。

「もも、大丈夫?」
「だ、大丈夫じゃないです……」

(どこの世界に、休憩室とはいえ、職場で朝から濃厚なキスをされて、大丈夫な人間がいるのだろうか……)

 しかも、誰も入ってこなくてよかったけど、鍵かかってないし!

「それで? どっちだった?」

 なのに、先生は追い詰めるように問う。
 恥ずかしさか、焦りか、そのすべてか……その低い声に私の顔はさらに熱くなる。

「そんなのっ、今のが衝撃的すぎて思い出せませんっ!」

 思わず怒って抗議の声を出してしまった。
 先生は少し驚いた顔をした後、とても嬉しそうな顔で微笑む。

「なら、よかった」

 そう言われて、私は口を噤んだ。

―――本当に今、私の目の前にいるのはリク先生……だよね?

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