腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる

 次の瞬間。
 リク先生は、右手で顔を覆った。

「どうしよう、ももがかわいすぎる。今すぐ抱きたい」
「……へ?」

 リク先生の発言とは思えないその言葉に面食らったとき、テーブルに置いてあった先生のスマホが鳴った。
 表示は『西條総合病院』。

「先生、病院からじゃないですか」
「……そうだね」

 そう言ってから、先生は電話を取って2、3言話すと電話を切った。

「先生?」
「さっきももに患者さん第一って言ってもらって情けないけど、今ほど、病院に行きたくないって思ったことない……」

 その言葉に私は思わず笑いそうになる。

「うちで待ってます。明日でも、明後日でも待ってますから。先生が帰ってくるのを」

 私は、立ち上がると、自分のスマホを出す。

「タクシー呼びます」
「じゃ、一緒に乗って行って。そのままももはうちまで乗ってね」
「はい」

「ありがとう、もも」

 タクシーを降りるとき、先生は当たり前みたいに私の唇に口づけて、私はそれに当たり前みたいに応えていた。
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