腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる
ももが大学4年生の夏、ももの家から斗真くんが出てくるところに偶然出くわして、心がぐにゃりと歪んだ気がした。
「……斗真くん? もも、どうかしたの?」
「ちょっと気分悪くなったみたいで。送ってきただけです」
「大丈夫なの? 後で往診に……」
「大丈夫です。ただの頑張りすぎですよ。もうすぐ試験だから」
「……試験って、大学の? もうほとんど試験はないんじゃ……」
「そんなことも知らないんですね」
そう言われて、ドキリとした。
「もも、卒業時に社会福祉士と精神保健福祉士のダブル合格を目指して今必死に勉強してます。医療ソーシャルワーカーになって、西條総合病院に勤めたいって。ももは、ただ、あなたのそばにいたくて、頑張ってるんです」
斗真くんはこちらを睨みつけるように見ていた。
「ももの気持ちに応える気がないなら、俺にください」
「……ももは、ものじゃないよ」
「それでも、自分のものにしたいって思うでしょう。何があっても守るって覚悟があれば……本音を隠す必要なんてないはずでしょう」
たぶん、彼はとっくにその覚悟はできているんだろう。
斗真くんは続ける。
「あなたにだけは伝えておきたかったんです。ももの両親はいなくなったかもしれないけど、彼女を本気で思う人間は他にもいるってことくらいは知っておいてください」