腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる

 先生は微笑んで私の髪を撫でる。

「もも、そのあたりだけは本音が見えなかったからね。ももが、夜の僕も好きになってくれたらそのあたりの本音も遠慮なく出すのかなって思ってた。でも、実際に夜の僕も好きになってくれて、ももが性的な本心を出してくれるようになったらなったで、自分相手なのにちょっと嫉妬しちゃったけど」

 その言葉に、思わずベッドからガバリと起き上がる。

「……ちょ、ちょっと待ってください! き、キスしたこととか、夜の間こと、知らなかったんじゃ……! だからあの時、我妻先生との話の時も、私にあんな風に聞いたんじゃないんですか⁉」

「夜の僕は良くも悪くも素直だったから、僕がそのことについての発言をしなければ僕の考えてることまでは分からないと踏んだんだ。ももの前に初めて現れたときからそうしようと思ってた」
「な、何言って……」

 私が完全に戸惑ったままなのに、先生は続ける。

「『夜の僕』の発言や行動は僕にも制御できないってわかってたからね。僕は、夜の僕を理性で制御する方法を探していたんだ。そうなるには彼が本心から納得して、僕の意識と一緒になると決断するしかないって思ってた」
「……一緒に」

「それについては、工藤とも相談してた。工藤も、ももの協力は不可欠だと言ってたし、実際、ももは僕が思ってる以上にすぐに『夜の僕』の心を掴んでくれた」
「く、工藤先生……って心療内科の?」
「あぁ、あの、工藤。工藤は優秀だからね、ももにも会って背中を押してもらいたかったんだ。工藤からも正司さんにももを連れて講演会に来てくれるように連絡してくれてたみたい」

 私は口があんぐりと開いて閉じなくなった。
 ハッと気づいて、やっと声が出る。

「わ、私のこと騙して、自分の本音まで騙したんですかっ⁉」

「うーん……まぁ、そういうことになるのかな」

 そんなにニッコリ笑って言われても、本当に意味が分からない。

 私は、リクさんに向き合って、先生の本音なら聞きたいって思って……必死に……。

 でも、それも全部、リク先生の思い通りだったってこと?
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