腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる
しかし、何とか言葉を繋ぐ。
私だって、人の話を聞くプロでもある。そして先生の妻だ。
「それは……えっと、それなら、今の忙しい状況は……むしろ幸い、という感じでしたか?」
「そうだね。でも、最近父親も経営の勉強もしろとうるさくて。実際参加させられる会議も増えてきた。今日なんて、入るオペを減らせとまで言われて参ったよ」
その語尾の強くなった言葉にどきりと心臓が跳ねる。
その原因はたぶん、いや、きっと私だ。
しかし、私のせいでーす、と言える雰囲気ではなく、私はなんとか次の言葉を絞り出す。
「……次期、病院長ですもんね」
「もも、何か父に言った?」
「ま、まさかぁ!」
(ホントのこと言ったら、私の身体が切り刻まれる!)
さっきから頭の中で警報音が鳴っている。
本音を聞いて、仲のいい夫婦になるはずが、どうも、サスペンスな展開になってきているような気がした。