腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる
ミーティングが終わって、私と室長が面談室に向かっている時、
「何かあった? 朝もそうだけど……やっぱり今日は少し変よ」
と室長が言う。
(さすが室長だ……)
医療ソーシャルワーカーとしてもベテランの室長に隠し事の類は難しそうだ。
かといって、こんなこと、相談できることでもないし……。
「え……いや……」
「あ、李久先生」
その室長の声に、思わず廊下にあった待合椅子の影に身をひそめる。
「おはようございます」
いつも通りのリク先生の声。
その声だけで、胸がドキリと跳ねる。
(今日は先生の顔を見ないでやり過ごしたかったのに……)
自分の気持ちが整理できていない。だから顔を合わせたくない。
そう思っていたのに、リク先生はまっすぐ待合椅子までやってきて、私の横でぴたりと止まった。