腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる

 そんな私を横目に、美奈さんはリク先生に言う。

「よく、ここにいるってわかったわね?」
「ももから美奈先生と食事をして帰ると連絡もありましたから」

 そう言って、先生はにこりと微笑む。

「もも、一緒に帰ろう」
「え……」
「そうよ、喧嘩なら2人で話し合いが一番よ」

 私が戸惑っていると、美奈さんは私の肩をポンと叩いて言った。

 喧嘩ではない。
 ないのだけど……。

 私が押し黙っていると、美奈さんはリク先生に言う。

「それにしても珍しいわね、二人が喧嘩なんて」
「僕が悪いんです。結婚したのに、なかなかももと過ごす時間も取れてなかったので」

 そう言って、リク先生は私の髪を撫でる。

「ごめんね、もも」
「っ……」

 その優しい手つきに絆されそうになる。
 リク先生を見上げると、先生は困ったように笑った。

 その顔を見て、胸がずきんと痛む。

 私は先生が好きだ。ずっと好きだったし、今も好き。
 先生を困らせたいわけじゃない。

「帰ろう?」

 あんなことを先生が言ったとしても、
 先生から差し出される手を振り払うことは……私にはできない。

 私はリク先生の手をそっと掴む。
 先生は微笑んで、美奈さんにお礼を言って帰ることになった。
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