腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる
あれからことあるごとにあの日の夢ばかり思い出す。
でももちろん夢は夢で、先生が強引に、なんてことはないだろうことは分かる。
だから、私は自分から誘ってみようと決めたのに……。
「なんで私は自分から誘う勇気すら出ないの!」
正直に言えば、結婚する前は男女の夜のことはほとんど知らなくて、ただ先生とずっと一緒にいたくて……夢中で好きだと言っていた。
それから先生と結婚はできたけど、『その先』を美奈さんから詳しく聞いて知り、驚いたけど、私は先生とならそういうことだってできるし、したいと思った。
でも、何も知らない以前のようにまっすぐに『したいです!』と言えないのは確かだ。
「臆病者」
思わず自分にそう言って、髪の毛をガシガシ掻く。
今日も下着だけはバッチリなのに、まったく披露する隙も勇気もない。
(このまま臆病者じゃ、間違いなくなにもないままでおばあちゃんになるよねぇ……)
そう思って泣きそうになったところで、ちょうどおばあさんのお見舞いに来ていたのか、斗真が私の肩を叩いた。
なんだか前回から、タイミングよく現れる幼馴染だ。
斗真は、一緒に昼食をたべないかと言ってくれ、私は頷いて、院内のコンビニで昼食を買って病院の屋上で昼食をとることに決めた。