腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる

 お風呂から出てリビングに戻ると、先生の広い背中が目に入る。その瞬間、胸がどきりとした。

「せんせ……」
「おいで?」

 リク先生に手招きされて先生のいるソファまで行くと、先生の隣に座らされた。

 そのまま先生は立ち上がり、ドライヤーを持ってくると、私の髪を乾かしだす。

「ちゃんと乾かさないと風邪ひくよ」

 優しい先生の声がドライヤーの音に混じって聞こえてくる。

「犬になった気分です」
「ももは人懐こいし、犬に似てるかもね」

 先生が楽しそうにクスクス笑った。

 髪がドライヤーの風になびく。

 気持ちいいけど……
 この後、自分から先生を誘おうとしていることを思えば、胸がやけに高鳴って緊張するばかりだ。

 唾を飲み込もうとしたら、ゴキュリ、と変な音がした。
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