腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる

 なんだか真剣な先生の表情に私まで緊張して、またやけに喉が渇いた気がした。

「実は、僕、高校時代ね。夜中になると、正確には12時を過ぎると……『別の自分』が現れることが何度かあったんだ」
「へ……?」

 先生が話し出したのは、思ってもいなかったことで……。
 でも先生の表情は、冗談や嘘を言っているようには見えなかった。

(別の自分、って……多重人格みたいなものってことだよね……)

 突拍子もないことなのに、不思議とするっと頭に言葉が入ってくる。先生は続けた。

「でも、高校の時だけで……それからはそんなことなかったし。実際、仕事でも問題も起きてなかった。ただ、ずっとそのことを気にはしていたんだ」
「気にしていたなら教えてくれたらよかったのに……」

 私は思わず言う。
 先生の不安なこと、私は全く気付かないでいたなんて……そっちの方がショックだ。

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