甘やかしてあげたい、傷ついたきみを。 〜真実の恋は強引で優しいハイスペックな彼との一夜の過ちからはじまった〜
 それに彼が本気だとは思っていなかった。

 ほんの挨拶代わりに誰にでも声をかけるのだろう、と。

 なにしろ、彼は会社で一番のイケメンで、しかも遊び人と噂の人物。
 食堂などで見かけたとき、彼のそばには、ファッション誌から抜け出してきたような、華やかなタイプの女子が取り巻いていることが多かった。

 一方、わたしはといえばファッションにはおよそ縁がない。

 会社には、ごくオーソドックスなデザインの、ベージュや紺のワンピースかツーピースしか着ていかないし。

 髪も一度も染めたことがないし、パーマすらかけたことがない。
 長く伸ばしたまっすぐな黒髪をサイドか後ろで束ねるだけ。
 メイクも最低限で、アクセサリーもほとんどつけない。

 この間までは、裕樹がはじめてのボーナスで買ってくれた指輪をしていたけれど……
 もちろん……今は外している。
 
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