甘やかしてあげたい、傷ついたきみを。 〜真実の恋は強引で優しいハイスペックな彼との一夜の過ちからはじまった〜
 実は、俺にとって、この就職は不本意なものだった。

 本来、進みたかった道の入り口で大きな挫折を経験して、ずいぶん長いあいだ、気落ちした状態が続いていた。

 自分の不幸を呪うことしかせず、性根が腐りかけていた俺を救ってくれたのが、清々しい彼女の存在だった。

 それまで付き合ってきた女の子を数え上げれば、平均以上だったと思う。
 でも、その存在が尊いとまで思った相手は、彼女が初めてだ。


「では、高梨専務、乾杯の音頭をお願いいたします」
 マイクを通しても、奈月の声は清らかな水みたいに澄んでいた。

 高校時代、放送部所属で、全国大会で優勝したこともあるらしい。
 俺より1年前に入社したけど、1歳年下。
 ……というのは、後で必死にかき集めた情報。
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