甘やかしてあげたい、傷ついたきみを。 〜真実の恋は強引で優しいハイスペックな彼との一夜の過ちからはじまった〜
「孝之ー」と大声で呼ぶ。
 すると驚いたのか、孝之はリフティングしていたボールを蹴り損ねた。

 ボールはこっちにまっすぐ転がってきて、島内さんの手前あたりで止まった。

「すいませーん、ボール、こっちにもらえますか?」
「おー」
 
 すると島内さんは、サッカーにはまるで詳しくないわたしが見てもわかるほど、それは美しいフォームで蹴り返した。

 そして、ボールは低い弾道を描いて、10メーターほど先にいる孝之の足元でピタッと止まった。

「すげー」
 いつのまにか、他のメンバーも練習を中断して、彼に注目している。

 孝之がこっちに向かって走ってきた。

「え、なんで?」
 そして、彼の顔を見たとたん、絶句した。

「どうしたの? 孝之?」
「し、島内さん、ですよね。な、なんでこんなところに?」
「きみのお姉さんと同じ会社でね。急いでいるのを見かけて車で送ってきたところだけど」
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