黒曜の戦場
「琥珀ちゃんは、この秋、作品を描くの?」
尋ねられる言葉に、すぐには口を開けなかった。
口を開こうとして、言葉が出てこないことに気付く。
私の中では、たくさんの糸と糸がぐちゃぐちゃに絡まったような状態で、何とか糸を手繰り寄せて糸の先っぽを探そうと藻掻くけれど、見つけることが出来なくて。
「……わかりません」
当然のように、絵を描く人だと、思われている気がしていた。
沢山の画材を抱えて、何時間も絵のお手伝いをして、ある程度の用語は知っていて。
暇さえあれば筆を握るような、テストやノートの端っこには落書きを常に描いているような。
そんな、理想。
私の中の、絵を描く人の理想。
鞄の中に入った薄い封筒が、やけに重いもののように感じた。
「絵は、好きなんです」
絵が好きだ、大好きだ。
大好きなはずなのだ。
だって私は、物心ついていた時から筆を握っていた。
絵のことを忘れる瞬間なんて片時もないほどに、絵が好きなんだ。
絵が、好きだと……。
「嘘です……わからなく、なっています」
「……うん」
「絵が……私に応えてくれなくなっているんです」