黒曜の戦場
ぞくり、背筋の凍るような低い声だった。
色目を向けていた彼女たちも、興味と羨望を向けていた彼らも、みんな咲くんの瞳に捕らわれる。
未夜くんを撫で撫でしていた私の指先もピクリと止まり、未夜くんに催促されていた。
笑っているのに、まるで首を狙われているような恐怖心に包まれている空間で、誰一人として動かない。
──いや、動けないんだ。
この感覚は、一度だけ体験したことがあった。
彼と初めて出会った時──絡まれた不良に一瞬だけ向けた冷たい眼差し。
自分には向けられたことは無いものの、いつのもほわほわとした雰囲気のせいなのか、ガラリと一変する切り替えの速さに、動きを止められる。
気のせい、なんかではなかった。
今この瞬間、それを実感している。
「昼休み、琥珀ちゃんが引き摺られていく姿を見た人は?」
女子の何人かにその冷たい視線を向けていく咲くんには、一体何が、見えているのだろうか。
何かを探すかのように、何かを取り逃さないように。
そんな、怪しむ眼差し。
「おい琥珀」
咲くんの後ろから顔を見せたいおりさんに呼びかけられる。
その隣には雨林さんまでいた。
みんな、大集合しちゃっている中、私だけが呼ばれる。