黒曜の戦場


紛れもなく、この教室に琥珀ちゃんは一人、私しかいない。



「ちょっと来い」

「?は、はい」



変に静まった空気の中、私だけが動き、三人の元へと辿り着くと、咲くんの両手が広げられ、視界が真っ暗になった。

ふわりと突然の温もりに包まれた琥珀の全身がビクッと大きく跳ねる。

背中には大きな手が回り、ドクドクドクドク、胸が大きく高鳴って止まない。

え、なに?何が起きたの?目の前は真っ暗であたたかい。



初めて感じるその力強い腕に、広がる香りに、胸の広さに、温もりに、心臓が大きく騒ぎ出す。

女の子とは違う、男の人の体格。



思わず大きく息を吸い込んでしまうと、鼻腔いっぱいに咲くんの香りが通り抜けていった。

咲、くん……だよね?



頭にはポスッと大きな手が置かれ、グリグリと雑に撫で付けられる。

これはいおりさんの手だ、きっと。



横からひらりと私の手を取る冷たい両手は……未夜くんかな。



身体中が熱くなっていくワニワニパニック琥珀ちゃんの事など気にもしていないような、トクトクとゆったりとした心音が耳から響いてくる。
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