黒曜の戦場
タイムカプセルのように虫や植物が閉じ込められている、あの石の名前と同じ。
子供の頃は漢字を書くのに苦労したという、結構どうでもいいと思われるエピソードもある。
「コハク、ちゃん?」
「はい」
少し目を見開くように私を覗き込むその人は、微かに笑みを作る。
「……綺麗な名前だね」
「ありがとうございます」
綺麗、と言われるのは、とても嬉しいことだ。
虫が入っている石だからと、子供の頃は嫌な印象を持たれていたこともあったけれど、今では綺麗だと言ってくれる人の方が多い。
「せっかく名乗ってもらったんだから、俺も名乗らなきゃだよねぇ」
ふふっと綺麗な笑みをこぼす彼は、その紫の差す黒髪の向こう側から、甘い瞳を向ける。
思わず、見入ってしまうほど、透き通るような美しい瞳の奥。
「俺は、咲《さき》っていいます」
「……咲くん、ですか?」
「ふふ、はい。黒曜《こくよう》という、野良猫たちの集まる場での飼い主をしています」
「コクヨウ……?」
飼い主?野良猫?
黒曜……?
「え、っと、つまり?」